*
外の人間たちからは
「ピンクだか、紫だかの悪趣味な塔」
中の持ち主からは
「とにかく無闇にきもい塔」
配下たちからは
「先代の愛が詰まった塔」
そう評される魔王の塔は、ひどく不安定な建物とされる。
魔生術で瞬時に造られているとはいえ、塔自体の造りはそれほど問題はない。
だが、度重なる冒険者どもの攻撃や、ミラ様自身の特訓やお仕置きの絶えないこの塔は――
破壊
振動
構築
――を、常に繰り返しているわけで、敵にも味方にも気の休まることのない、実に居心地の悪い砦とされている。
が、
「あら? 慣れると結構楽しいわよ。三つくらい一気に壊れると、ず
どーんで、どどーんで、面白いし。
こっちの殺る気もどーんと上がるから、万々歳よ」
……きもい塔と言っていたわりには、何だかんだで気に入られているらしい。
さて、我らが魔王陛下はこの振動を、さらに面白おかしく活用できないかと常に思案を巡らせておられる。
へまをやらかした部下のお仕置きとして、
油壺を頭に乗せた状態で、さらに魔石の上に立たせて、戦闘中放置するという罰ゲームを考え付き、実践され
たこともある。
……結果、危うく本陣が大炎上しそうになった。
その後、一度もこの企画は実行されていないが、振動を利用する計画自体は諦めなかった。
――例えば、こんなモノもある
*
そびえ立つ世界征服の塔。
その上階に、
万力、鉄の処女、電気椅子。
苦痛を捻り出すための、ありとあらゆる存在がうごめく一室がある。
鉄と血で造られたその住人たちは、突然、声を上げて笑い出した。
階下で未だ続く戦闘。
それによって部屋が破壊され、塔が大きく揺れたためだ。
「――ひぐぅっ――」
鎖と器具がこすれる笑い声に紛れて、
微かな悲鳴が漏れる。
拷問室の片隅に、他の住人とはやや距離をおいて、木で出来た何かがポツンと佇んでいる。
机のように、それには四本の足が生えてはいるが、
三角柱の側面に足がつき、見事な背びれを持ったそれは
机として、物を置く余地はなさそうだった。
ではそれは何なのかと問われれば、
一般的には「木馬」と答えるしかないだろう。
首も無ければ尾も無いのに、それでも馬かと思うかもしれないが、
例え見た目が馬に見えなくとも、こうして誰かが騎乗してさえいれば、
それは立派に馬と呼べるのではないだろうか。
微かに鈍い音が響き、
次いで大きな音が轟いた。
再び塔が揺れ、鉄が喚き、木馬が嘶く。
「――あぅ!」
それと同時に騎手の体が大きく揺れ、口元から悲鳴が漏れる。
木馬に跨る彼女は、鞍どころか衣服もほとんど着けていない。
両腕は後手に縛られ、革紐で天井から吊るされている。
両足にはそれぞれ砂袋が括り付けられており、それらと彼女自身の重みが、むき出しの秘所に木馬の鋭利な背を食い込ませる。
「……ひぐっ……もう……やめ……て……」
栗色の大きな瞳から、ぷっくりとした小さな唇から、真っ赤に腫れあがった割れ目から、絶えず雫がこぼれ落ちて、
まじない士と呼ばれていた彼女の体と、木馬をどろどろと汚していく。
塔が大きく揺れるたびに、秘部が強い刺激を受け、痛みが体中を駆け巡る。
魔王に捕らえられ、ここに連れて来られた当初は、涙と悲鳴だけが彼女から溢れていた。
だが今では、漏れる吐息は甘い熱をおび、
秘所から流れる蜜の量は、どんどんかさを増していく。
魔生術の源であるNPは、人間の負の感情から得ることが出来る。
冒険者を完膚なきまでに叩きのめすことで、楽に手にすることが出来るが、
こうした責苦などの方法でも、時間は掛かるがNPは引き出せる。
ミラ自身は、さっさと塔から叩き落すのが最善の方法だと思っている。
だが、
この腹の立つ冒険者どもを、簡単に帰らせるのも癪だと思っている。
そうした様々な利害が一致した結果、
運悪く、特に目を付けられていたまじない士の一人が捕らえられた。
こうして彼女は、木馬の上で絶えず苦痛と快楽を与えられ続けている。
それも、味方の冒険者が引き起こす振動によって。
「ひぅっ……んぁぁ!」
塔を進行中の冒険者たちは、自分たちの攻撃によって同胞が嬌声を上げている事など、知る由もない。
だが彼女は、自分を攻め立てる揺れの意味を理解している。
「……んぅ……お願い……だからぁ……」
そしてその事実が、まるで同胞たちに犯されているかのような錯覚を、彼女に与えていた。
そしてまた、どこかのフロアが崩れ、塔が揺れる。
「――ふやぁっ!!」
彼女の体が跳ね上がり、木馬の上で踊る。
「――うぁんっ!」
揺れる。
「――ああぁぁっ!!」
踊る。
*
最後には、彼女は苦痛をまるで感じなくなっていた。
塔の揺れに悦びの声をあげ、次はまだかと木馬に股間をすり寄せるほどに。
そうなってはもうNPを得ることも出来ないので、彼女は木馬から解放された。
――どこに解放したのか、その後どうなったのか、魔王陛下はあまり気にしない。
ミラ様の興味は、手に入れる前のおもちゃと、振り回している最中のおもちゃにしかないからだ。
そうしたおもちゃの管理も、我々魔王軍の責務である。
再び利用できる機会も、そう珍しくはないのだから。