「ふぁ……」

 濡れたアソコが外気に触れ、私は小さく悲鳴を上げた。
ずり上げられた下着は、太ももの真ん中辺りで、数字の8を横にしたようになっている。


「もう少し、続けてみたい気もするけどな……やっぱ、俺は堪え性がないみたいだ」

 何をこらえているのかは聞くまでもなかった。
さっきから私のお尻を押し上げるそれは、どんどん存在感を増し、服越しでも熱と脈を感じることができていた。

「……悪りぃ、もう無理だ」

「! ちょっと待って、今挿入れられたら――」

 普段の何倍も敏感になってる今の状態で、彼のを挿入れられたら……どうなるのかまるでわからない。
私は大きな不安を抱いていた、だが同時に強い期待も持ち合わせていた。
だから、彼が大きくそそり立つそれを取り出したとき、口では止めようとしていても、胸の中では……まず安堵していた。
――やっと、してもらえる――

 彼は剥き出しになった割れ目を指先で開くと、分身の先端をあてがった。
私の身体が瞬間こわばった時には、彼の一部がいっきに私の中に差し込まれていた。

「――っ!!」

 さっきまでの彼の愛撫によって、私の声は尽きたのかもしれない。息がつまり、何も発することができない。
そして、私の身体は侵入してきた異物を力いっぱい押し返そうとしていた。

「っ! すげぇな……お前の中、いつもよりずっとくわえ込んでくるぞ」

「だって……だって!」

 本当は、押し返してなどいない。私の身体は、彼を離さないように一生懸命だった。
肉と肉の間には、すでに湯水のごとく蜜があふれており、彼が私の中に入ってくるのを助けている。

 彼に後ろから、いや、真下から突き上げられるたびに、宙に浮いた身体ががくがくと揺れる。

――ぐちゅっ――ぐちゅっ――ぐちゅっ――

「だって、そっちこそ……あんっ………いつもより、大きいんだも ん……っ!」

 普段より二周りほど大きいんじゃないかと思えるモノが、休むことなく私 の中に打ち付けられる。
肉壁を通過するたびに快感が背中へと駆け巡り、彼の先っぽが最奥にまで達すると頭が揺さぶられる。
私も、彼も、普段とはまるで違うお互いを感じていた。


 けど、この無防備な体勢では、その状態を維持することはできなかった。
混ざり合った液体がぐちゅぐちゅと音を立てる中、急速に何かが私の中を駆け巡り、
彼がもう一度突き上げてきたときに、それは私の喉を振るわせた。 

「――ふあぁぁぁっっっっ!!!」

 足が、背中がぴんと張りつめ、アソコが渾身の力で彼を締め付ける。
押し寄せた快楽が、頭の中をきれいさっぱり流し去っていく。

「……はぁ…………あぁ……」

次の瞬間には身体中から力が抜ていた。あごまで垂れたよだれを、拭う気力もない。

――私……もうイっちゃったんだ――

 今の自分の状況を心の中で表現したとき、さっきまでの羞恥心が、また私の顔を染め上げてきた。

 その前が長かったとはいえ、挿入れられていたのは十分にも満たなかった。
それでも、私の身体はそれまで達したことのない悦びを味わっていた。
少し無理矢理ではあったけど、確かな充実感を感じ、余韻に震えていた身体が落ち着いてきていた。

「……あれ?」

 何か違和感を感じ、私は身体をよじらせた。相変わらず彼は私を後ろから抱きかかえている。
そして……違和感の正体に気づいたとき、押し殺したような彼の声が頭に流れ込んできた。

「……おいこら。自分一人だけ先にイクとか、どーゆー了見だぁ?」

 私の中ではまだ、彼の肉棒がはちきれんばかりに脈打っている。
そのときやっと、私は自分にかまけて彼のことをほっぽっていたことに気がついた。

「ご、ごめん……」

 どう答えたものかわからず、一応謝ってみた。
おそるおそる振り返ると、元々あまりよくない目つきがさらに凶悪さを増している。

「せめてなんか言ってくれよな、そうすりゃ俺だって――」

 愚痴る彼に、勝手に口が反論していた。

「だって! そんなの無理だったよ。……すごく、気持ちよかったんだもん」

 思わず口をついた言葉が、さらに私を真っ赤にさせた。
ゆで蛸の上がいるのならば、今の私と同じくらいの色だろう。
顔を背けた私に軽く舌打ちをすると、彼は「しゃーねぇな」と呟き、私の身体をゆっくり持ち上げ始めた。

――ぬゅぷぅ――

「――っ!」

 私の中から、粘ついた肉棒が引き抜かれていく。
一度絶頂を迎え敏感になっているアソコが、その動きに悶える。
一度引いた波がまた押し寄せてきたが、私はなんとか耐えることができた。
そこまでは。

 入り口に、何かが引っ掛かる感触があった。
それが彼の先端であることはすぐに理解したし、それを抜くときはもっと……だろうな、と少し身構えていた。
だが次の瞬間、少しずつ持ち上がっていた私の身体が、がくっと落ちていった。

――ぐぅちゅぁっ!――

「――ひやぁぁぁぁんんっっ!!」

 再び彼の一部が押し込まれ、私の身体を、頭のてっぺんまで貫いた。余韻にまどろんでいた身体が悲鳴を上げ、視界が涙で歪む。

「……せめて、一発は出さねぇと治まりがつかねぇよ」

 そう言いながら、彼は再び私の身体を上下に揺らし始めた。

「はぅ!……らめぇ……私、もう………これ以上はっ……」

 いまだかつて受けたことのない快楽の連続に、私の身体はすぐにまた対応しだした。
だが、心の方は怖気づいていた。
このままいけば、私は壊れてしまうんじゃないか、
真っ白だった頭の中に隠れていた恐怖が、どんどん膨らんでいき、嗚咽になって漏れ出した。

「――おね、お願い…………だから……」

 泣きながら私が懇願すると、彼は一瞬躊躇した。動きを少し緩めると、私の頬と彼の頬が重なった。

「――すぐに終わらせる。だから……もう少しだけ我慢、できねぇか?」

 私は横目で彼の顔を確認しようとしたが、彼はすぐに顔を背けてしまった。
けれど、どんな顔でいるのかはなんとなく想像がつく。
おもわず吹きだすと、私を抱える彼の両手に力がこもった。
けれど、怖くはなかった。
さっきまで恐怖を見出していた彼の熱い吐息や、細身ながら逞しい身体も、私の中で脈打つ彼の一部も、
改めて愛しいものだと感じていた。

――そうだ、私は……彼を恐れる必要なんてないんだ――

 ぶっきらぼうな物言いで、荒々しい行動。だけど、ときおり掛けてくれる言葉は、誰よりも優しく、暖かい。
そのことを、私が一番知っているはずだ。

「…………」

 私は何も言わず、ただこくん、と頷いた。彼は私の首筋に軽く口づけすると、再度、私の中に挿入を始めた。

「あぁ! はん! ふぁ!」

 何度もこすりあげられた身体は、痛みを覚えていた。
けれど、それ以上の思いが満ち溢れ、私の身体を優しく包み込んでいく。

「――っ、そろそろ……出すぞ!」

 彼が声を絞り出すのと同時に、出し入れの感覚がどんどん短くなっていく。
彼は私をさらに強く抱きしめ、私もまた、膨張する彼の一部をさらに締め上げる。
彼が最奥まで一気に挿入した瞬間、それは大きく膨張し私の中で弾けた。

――どくっ――どぴゅっ――

「あ! ふぁぁぁぁっっっっ!!!」


 身体の中に熱い液体を注がれながら、私は二度目の絶頂を感じていた。
今度は、彼と一緒に。

 互いの呼吸だけが辺りを包む中、しばらく私と彼は過ぎ去っていく快楽に身を任せていた。

「………はぁ…………あ、ふぐぅ!……」

 火照った私の中から、少しずつ小さくなっていく彼のモノが抜かれた。
痙攣する私のアソコから、私以外の何かが、ごぽごぽと音を立てながら溢れていく。


「……平気か?」

 息を整えていると、不意に彼が耳元で呟いた。私は微笑みながら返した。

「うん、大丈夫……でも、そっちこそ平気なの?」

 私の問いに、彼を喉を詰まらせた。
身体能力は高いが、もともと彼は腕力も体力もそこそこでしかない。
……そんなに重くはないと思いたいけれど、これ以上、私を抱えあげているのは無理だろう。
事実、冷静になって観察すると、彼の両腕も、両足も、小刻みに震えていた。
人のことは言えないけど、ちょっと笑っちゃう光景だった。

「い、一回下ろすぞ」

 言いながら彼は、まるで乱れていないベッドの上へと腰を下ろした。
そしてやっと私の両足もお尻から下へと動いた。けれど、相変わらず私は彼の上にいた。

「……絶対疲れるのはわかってるんだから、普通にすればいいのに」

「あー……いや、たまには変わったこともしねぇと、不味いんじゃねぇかな、と……」

 彼は数回頭を掻いてから、思い出したように私に尋ねてきた。

「それより……どうだった?」

「……え?」

「だから、いつものと比べてどうだったかって聞いてんだよ」

 背中越しの私の視線から顔を背けて、彼は恥ずかしそうに吐き捨てた。
私は顔を正面に向けてから。素直な感想を口にした。

「……それは、うん、いつもよりすごかったよ。……すごく、気持ちよかった」

 手持ちの絵の具が切れたのだろうか、とんでもないことを口にしているのに、私の顔はそんなに赤くはならなかった。
振り向くと、代わりに彼の方が真っ赤になっていた。

「でも、わたしはやっぱり普段の方がいいな」

「……そっか?」

「うん、だって、あっちの方が二人とも楽でしょ?」

 私が笑うと、彼も釣られて苦笑いを浮かべた。

「んじゃ、俺からも一言」

 彼は私を後ろから包み込むと、私の肩に自分の顔を載せた。

「……俺に不満があるときはさ、…まず……俺に言ってくれよ」

 それまでとは違う彼の声色に、私は思わず胸を押さえた。

――お前の親友がな、わざわざ俺に忠告してくれてなぁ――

さっきの、彼の言葉がよぎる。

「他の奴から、そーゆーこと聞くとさ、…結構こたえるんだよ」

「……ごめん、でも――」

「そりゃまぁ、本人に向かって直接愚痴は言えるわけねぇし、仲のいい女同士でだべってたら、そんな話にもなるだろうけどよ」

 私はそっと、彼の手に自分の手を重ねた。その手を掴むと、彼は強く握り返した。

「……俺じゃ、力不足なのかとか、色々考えちまうんだよな」

「…………」

 私は無言のまま彼の首に手を回すと、強く引っ張った。背中と胸が重なった状態で、唇と唇も重なる。
ひとしきり口付けを交わした後で、私は彼に笑いかけた。

「……私も、よく不安になるよ。
キャラバンの旅のときも、みんなに迷惑をかけないように、無理して背伸びしてた。
……そしたら、私に向かってこう言ったよね?」

――お前が無理して合わせたら、俺らも無理矢理しなきゃならねぇだろうが!――

「……俺、そんなこと言ったのか?」

「うん言ったよ、無茶がたたって、体調を崩した私の枕元で」 

「……馬鹿だろ、そいつ」

 うなだれる彼の頭を、笑いながらかるく撫でてみる。

「私も、ちょっと酷いなぁって思ったよ、そのときは。
……でも、すぐにわかった。あなたが何を言いたかったのか。だから、今度は私が言ってあげる」 

 彼の頬を、両手で包み込み、顔を上げさせる。

「……無理をせずに、私たちは、私たちのペースで歩いていこうよ。一緒に……ね」

「――いいのか? それで」

「うん、だって――」

 その続きは、彼の中へと吸い込まれていった。唇を合わせたまま、彼は上体を倒し、二人でベッドに横になった。
すっかりべとべとになっていた服はすぐに脱ぎ捨て、私たちは互いの心臓の音を聞きながら眠りについた。



――で、朝になったら、二人とも筋肉痛で悶えていたってか。ごくろーさまねぇ――

――笑い事じゃないよ。心配してくれる人みんなに、言い訳しなきゃいけな かったんだから――

――まぁでも、雨降ってなんとやら、うまくはいったでしょ?――

――それはそうだけど、もう二度と、こんなことはしないでよね!――

――えぇ〜? せっかく人肌脱いであげたのにぃ――

――……やり返すよ?――

――ごめんなさい。調子乗ってました、すいません――

――でも、そっちはそんな心配ないんじゃないの?――

――いやー、まー、そのー、ねぇー、あは、あははははは……――

――……何か、あったの?――

――……う、うわぁーん! あのばかぁっ!……――

――はぁ、やっぱり。ほら、話してみて――


 色々と困ったことになるのは珍しくない。

 だがそれでも、私は自分の交友関係は、とても恵まれていると思う。

 ……修正の余地は多々あるけども。


 




<最初から>


<あとがき>


<おまけ>



<gallery>


09/05/13