「……おい、クロエリ。あまりいじめるな」
「大丈夫ですわよ、
なにせ、カノコはこの中で、一番無敵な子ですから」
「えっとですねー、クロエリさんは……
すごい人だと思います、とにかくすごいです」
「はい、よくできました」
なでなで
「えへへ」
「……カノって驚いたり、慌てたりはするけど……」
「なんだかんだで世渡り上手ではあるよな」
「……話は変わるけど、
カノの名前ってカノコなんだよね」
「はい、そーですよ」
「……俺は最初、カノ=コユリ、だと思っていたな」
「そっちの方がしっくりくるし、本人が自分のこと、
カノって呼んでんからな」
「うーん……やっぱり自分のことを名前で呼ぶのは、
直した方がいいですかね?」
「別にいいとおもうけど?
カノの喋り方とか、わたしは好きだし」
「まあ、歳に合わせて一人称とかは変わるものだし
そんなに気にしなくてもいいんじゃないかな」
「そうですかー。……あ、そういえば
姉さまたちもいつの間にか自分のこと、
『わたくし』って呼ぶようになってましたー」
「そっか、カノのお姉さんたちも―」
「――お姉さん?」
「なんだ、姉がいたのか」
「あり? コウスイもセンも知らなかったの?」
「えっとですねー、カノには、
一番上にササ姉さまと、二番目にイトハ姉さまが
居られるんですー」
「そうだったんだ……初耳だよ」
「ま、冒険者とかその手の仕事やってる奴の間では、
家族とかはちょっと敬遠されるネタだったりもするしな」
「そうですわね、ただ、そもそもこのギルドは、
他と比べれば付き合いの深いものですからね」
「家族みたいな感覚だよねー」
「はいですー」
「むぅ、……悪いことではないんだが、
あまり深く立ち入ると……」
「……その辺、ちょっと、難しいところではあるよね」
「だが、どうせそういった立ち入った話は、
俺ら野郎にはあまり縁もないだろ?
ま、気にすることはない」
「……確かに、その辺はこれ女子と男子ではけっこう違うよな。
年齢とかもあるだろーけど、
オレらでそんな風に駄弁ってることは少ねーわな」
「ふーん、そーゆーもんなんだ」
「それじゃあ、カノについて、
他に何かある?」
「……そうだな、自分が思いつくのでは、
ギルド内ではもっとも腕力が強い、といったところか」
「え! そうなの!?」
「ボクやコウスイより、上だとは思ってたけど……
セン以上なの?」
「戦闘技術ではセンがトップでしょうが、
単純なパワーではカノコの方が秀でていますわね」
「そ、そうなんですか!?」
「……そっか、センも確かに力はあるけど、
センの強みは、動きとかが長けてることの気がするよね」
「細いんだよなー、センの動きって。
ちょこまかしてて、こっちの攻撃はまるで当たらねぇの」
「それに対して、カノはゆっくりと正面突破派だな」
「真正面からハンマー振り回してくるよね、基本的に」
「……考えて戦うのは苦手で、
まだまだ未熟者ですー」
「……いや、あれはあれで十分すごいよ」
「触れるものすべて吹き飛ばす回転物体が、
ゆっくりと迫ってくるからな。
うん、めっちゃ怖い」
「センさんや、それにトゥムリーさんからも、
色々ご教授して頂いてるんですけど……、
なかなか活かせてないんです」
「へぇ、センだけじゃなく、トゥムリーさんにも?」
「はいです、村の端っこで練習してたら、トゥムリーさんに
武器の持ち方とかを指摘してもらったことがあるんですー。
その縁で、時々お暇なときにお相手してもらってますー」
「……この村、
やたらと博識だったり、技術のある奴が多いよな」
「あ! わたしもね、トラトさんに色々教わってるよー」
「おー! そうなんですかー。やっぱりシャク・シィさんも、
戦闘や、冒険者の心得とかを教わってるんですかー?」
「うーん、もちろんそうゆうのも教えてもらってるけど……
他にも色々だよ。ね? コウスイ」
「……」
「え?」
「あ! ひどーい。
この前、コウスイにもやって見せたじゃん!?」
「この前……?」
「……」
「――!!?」
「?」
「えー、あー、シャク・シィ君?
それは一体、どのようなものでござんしょ?」
「えっとね、トラトさんの得意技だったんだって、
まず正座してから――」
「――シャ、シャク・シィ!
カノの名前の由来って知ってる!?」
「へ!?
えっと……ユリの名前だっけ?」
「はい、そーですー。
カノの名前は、鹿の子百合から頂きましたー」
「たぶん、球根繋がりだろうね」
「……けど、若干口調は被ってないか?」
「そうかなぁ?」
「ま、見た目がすでに似通っているからな」
「そうですかぁー……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……終わりか?」
「いや、でもまだそんなに時間が経ってないよ!?」
「オレん時の、三分の二も進んでねーよな」
「うーむ……だが他に説明すべき事となると……
かなり立ち入った話に……」
「はぅ……ごめんなさい。ぜんぜん持ちませんでしたぁー」
「別に、カノが謝ることじゃないよ」
「ぶっちゃけ、作ってる人が悪いんだよねー」
「……」
「ただ、カノは真面目で、素直な子ですので。
こんなことをやらかしたとか、
こんなことをさせられたとか、
そういったオモシロエピソードは少ないんですよねぇ」
「……確かに、そういうので脱線して、
ぐだぐだやってるのが今までのパターンだったよね」
「……実に円滑に事が進んでいたな」
「脱線しかけたところで、
無理やりコウスイが軌道修正に走ったからな」
「ギクッ!」
「……あれ? ねぇ、コウスイ。
わたし、何か忘れてないかな?」
「そ、それは……」
「……」
「――ああ! 思い出した!」
「――っ!!」
「お茶うけが出てない!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……へ?」
「さっきから、なーんか足りないなぁと思ってたんだ。
ほら、いつもならお茶飲みながらつまめるように、
おかしとか、煮物とかがちゃぶ台の上に置いてあったじゃん!
それがないじゃん!?」
「そういえば、確かにないな」
「……そもそもお茶請けじゃなくて、
ほとんど主食と化してたけどね」
「今回は、イリーナに頼んでいなかったのか?」
「……ごめん、すっかり忘れてた」
「今回は少しタイミングが悪かったので、
下準備が足りてませんでしたわね」
「う〜、お茶うけ〜、食べ物〜」
「あーこら! 床の上でごろごろしない!
色々見えちゃうだろ!?」
「おかし〜、ふがし〜、にぼし〜」
「……にぼし?」
「……姉御のおやつで、煮干とかなんか置いてねーのか?」
「うーん、あるかもしれないけど……。
シェルロッタ、そういうのは僕には内緒にしたがるんだよね」
「じゃあ、コウスイさんもわからないんですかー?」
「……いや、そのぉ……」
「……一つ屋根の下で長いこと暮らしていれば、
その程度は隠し事にはなりませんわよねぇ?」
「だがまあいくら身内でも、人が隠しているのを
勝手に持ち出すわけにもいくまい、なにせ消耗品だしな」
「……それより、なんで煮干の話になったの?」
「にぼし〜、ひぼし〜、うめぼし〜」
「今度は漬物になったぞ」
「……なんかこう、秘伝の漬物とかないのか?
2000年物のヤツ」
「うーん、どうだろう……イリーナが作ってたかもしれないけど」
「リアンさんは作ってらっしゃらないんですかー?」
「……それはね、ちょっと……」
「ま、彼には無理っぽいよね」
「……いいかげん、引っ張るのも苦しくなってきましたわね」
「……相変わらずな展開だが、この辺りで休憩に入るか」
「ではでは、その間に何か用意しましょーか」
「う〜あ〜う〜、お腹が空いて動けない〜」
「だーもう! わかったから人の足に抱きつかないの!」
「……じゃあ、各自、何か持ってくるということで」
「了ー解、んじゃ、にぼしでも探してくっかー」
「じゃあ、カノはうめぼしさんを貰ってきますねー!」
「……止めた方がいいのだろうか」
「シラ・ハはともかく、カノは本気で持ってくるだろうな」
「……そういう娘ですからねぇ」